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ごみー。


  七人七色 フラストレーション・ハレーション(5)

 

 今日は本当に厄日だ。なんかいつも以上に人に振り回されている気がする。
 もう、さっきとは別の意味で先輩らと顔を合わせるのがつらい。どう謝って許してもらおう。
 ごみを綺麗に詰め直したごみ袋を片手に校舎裏のダストボックスを目指しながら、あれこれ考えるけど全然まとまらない。
 ゴミ捨て場は、それはもう寂しさと不気味さの漂うような場所だった。
 周りが校舎と木々で囲まれたコの字型になっているスペースの一番奥にある、大きなゴミ収集用のコンテナを開けてゴミを放り込みと、来た道を引き返す。引き返そうとした。
 何と、前方からいかにも柄の悪そうな男子生徒が数人、ずかずかとこの場へやってくるではないか。
 そして、彼らに引きずられるように、今にも泣きそうな顔をしている気弱そうな男子の姿もいる。一目で、これがいじめの現場であることを察した。
 どうしよう。止める止めない以前に足がすくんで動けない。私はこの場でどうしたらいいか必死で考えようとしたが、そんな暇などなかった。
「あ? 何、先客居たの?」
「ちょうどいいや。こいつからもせびってやろうじゃん」
 相手が私を見て何か物騒なことを言ってる! 冗談じゃない。
 私の背後は行き止まり。逃げるにしたって、彼らの脇をすり抜けるしか突破口がない。 でも、それが許されそうにもない。
 どうしよう。
 どうしよう。
 どうしよう。
 そうしている内にじわじわと校舎の壁の方へ追い詰められ、囲まれた。
「わ、わた、私お金持ってませんから!」
「あー、そんなの関係ないから」
 男子生徒の一人がおもむろに携帯を取り出した。
「その代わり、君の恥ずかしい姿を写メっとくから。ばら撒かれたくなかったら、分かるよな?」
 カツアゲよりたちが悪い! 反射的に逃げようとしたが、すぐに肩をつかまれ、壁に叩きつけられる。本当にまずい。痛みと怖さで本当に泣きたくなってきた。
 もう、こんなの嫌! なんで今日に限ってろくな目に遭わないのか。本当、私が何をしたって言うの!
「おい、そこで何をしている!」
 不意に頭上から怒鳴り声が響いた。
 驚いて真上を見ると、3階廊下の窓から顔を出している区賀先輩が見えた。
「女子一人によってたかって、恥を知れ、この卑怯者ども!」
「なんだと、てめえ!」
「何だとは何だ! 俺は正論を言ったまでだ!」
 私はこの隙に逃げようと頑張ってみたのだが、男に腕を掴まれて捩じり上げられた。抵抗しようとしたが相手の力が強すぎる。
「市原さん! こうなったら!」
 上を見ると区賀先輩が窓に足をかけていた。
「先輩! ダメです! 3階だから落ちたら死んじゃう!」
「だが現状、俺がどうにかしないと!」
「だったら先生に知らせるとか、とにかく人を呼んで下さい!」
 私は頭がクラクラしてきた。色々無謀すぎる上に考えなさすぎる。
「さっきからギャーギャーうるせーんだよ!」
 強く腕を引っ張られ、激痛が走る。
「市原さん!」
「るせー! 今からこの女めちゃくちゃにしてやるから、てめーは黙ってみてろ!・・・ ・・・いてっ!」
 私の腕を捩じり上げている男の顔が苦痛にゆがむ。
「どうした!」
「わかんねえ、なんか背中に石みたいなのが当たったみたいだ」
 目の前の男は私の腕を放すと、自分の背中を抑えた。その足元には、投げつけられたと思われる石ころが転がっていた。
「お前ら、うちの可愛い後輩に手を上げるとはいい度胸しているよな」
 「彼」は、校舎の陰から悠然とした態度で現れる。
「しかも何? いじめに脅迫に婦女暴行って弁明の余地もないじゃん」
「誰だ、てめえ!」
「そっちこそ誰だっての」
 まるで漫画やアニメのヒーローのようにそこに立っていたのは、道ノ倉先輩だった。

 

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