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殴りたい、この笑顔


  七人七色 フラストレーション・ハレーション(7)

 あの後、区賀先輩からも同じ件で謝られ、私はまた恥ずかしさでいろいろ爆発する羽目になった。まあ、自業自得と言われたら、返す言葉が全くないんだけど。
 区賀先輩は、私の失態を気にすることもなく逆にいろいろ心配してくれて、それがありがたい様で申し訳ない気分になってくる。
 ちなみに、あの不良たちはすぐに先生たちに引き渡され、処罰が下された。リーダー格は退学となり、そのほかは停学などの処分に。まさか学園ドラマでよくある退学処分と言うシチュエーションを現実でも見ることになるとは思いもしなかったが、これでもう私もあの苛められっこも、怖い目に遭わなくて済むようになった。
「で、やっぱり教室に手伝いに行かないんですか、道ノ倉先輩」
 翌日の放課後。一番乗りで部室に来たつもりが、そこにはすでに道ノ倉先輩が来ていた。
「大丈夫、うちの班の仕事は終わったから」
「道ノ倉先輩の仕事は?」
「大丈夫、それもきっちりこなしたから」
 そう言って、先輩はクリアファイルから一枚の紙を取り出した。
「うちのクラス、ジュース屋やるからそのメニュー表のデザインをな。班の女の子たちのアイデアをいろいろ組み合わせて、部活の合間にパソコンでちょいちょいとつくっってたから」
 そう言えば、道ノ倉先輩の持ってるクリアファイルって、ちょっと前に見た覚えがある。確かそのファイル、廊下でクラスメイトらしき女子に渡していたっけ。となると、あの人は先輩と同じ班の人で、先輩の作ったデザインを受け取りに来たんだ。
「あれ? じゃあ、先輩って仕事をさぼってたわけじゃないですよね。だったらどうして、区賀先輩にあんな事言うんですか?」
「そりゃ、奴の前で仕事するのは癪だからに決まってるじゃん」
 子供ですか。
「ま、どうせ僕がデザインしたって言ったら、奴の事だから言いがかり付けて没にするのは間違いないだろうし。それだったらほかのメンバーが作ったってことにしといた方が、円満だろ」
「なんか面倒、いや、難儀ですね」
「だろ? だからああいう体育会系は嫌なんだ」
 私としては2人とも、という意味だったんだけども。まあ、いいか。
「ま、でも、区賀との件は大将にも怒られたしな。うん、以後気を付ける。少なくとも部員に迷惑かけないくらいには」
 それ、クラスには迷惑かける気満々じゃないですか。言わないけど。
「道ノ倉先輩って、区賀先輩の言う事は聞かないのに、喜衣乃先輩の言う事は素直に聞くんですね。同じ体育会路線なのに」
「だーかーらー、奴と大将じゃ話にならないくらい違うんだってば」
 道ノ倉先輩が顔をしかめる。
「どの辺がですか?」
「人徳」
 ものすごいシンプルな返答だった。
「まあ、もっと言えば大将は奴と違って、僕らをきちんと信頼してくれる。助けを呼べば何の疑いも抱かずに駆けつけてくれる。規律がどうとかよりも、人のために動くことができる。頭ごなしで人の考えを否定したり、自分の考えを押し付けたりもあまりない。僕は、自分勝手と叩かれても、僕自身を信じてくれる人間にはちゃんと応えるつもりだ。それがスタイリッシュってやつだ」
「最後のやつ、意味が分かりません」
「えー。ちょっとがっかりー」
 先輩がおどけた口調で言った。
「ま、信頼してくれる人間は信頼しろって話。僕は大将同様、藍ちゃんの事も信頼しているからさ」
 まだ、全て納得したわけじゃないけど、道ノ倉先輩の優しさは信じてもいいと思った。時々ちょっと残念で、時々ちょっとカッコ悪くても、やっぱり立派な先輩なんだと思えた。
 次の瞬間までは。
「だから今度はストレスを変に貯めて爆発させるのは禁止だからね?」
「!!」
 あの時の失態がフラッシュバックして、私の体温が急上昇した。
「藍ちゃん? あちゃー、思い出し自爆?」
 困った子だなあ、と笑う先輩。
 もう二度とあんな失態をやらかすものか。先輩の言う通り、変な爆発するのもやめよう、絶対に。私はそう誓った。

 

 だが、私はこの時点では知らなかった。
まさか、数日後にその誓いがあっさり破られる『事件』が待ち受けているなんて、想像すらしていなかったのである。

 

それはまた次回、沙輝の話で語られることになる。

 

 

フラストレーション・ハレーション  完

 

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