七人七色 絵には毒舌 心に花マルを(6)
私の風景画を国木田先輩が腐海だと言い放ったように、自分が見て欲しい表現が他人に伝わらないことは良くある話だって先生は言った。
でも、世の中には誰が見ても明らかな物を、自分の妄想で歪めてしてしまう人もいる。
それ自体は悪くないし、むしろそこから新しいものを生み出すこともあるとも先生は言った。
だけど、今回は何が一番悪かったのかと言うと、心無い言葉で藍の気持ちを踏みにじった事である。
もうちょっと突っ込めば、描いたものを批判したのではなく、描きたいという思いを否定したのだ、あの子たちは。辛口で毒舌な先生ですらあんなことは言わないのに。
「実はあれから小春たちとは喋ってないの」
翌日昼休み。偶然見かけた藍がめっちゃ吹っ切れた顔でそう言った。
「だって、向こうは全然謝る気がないどころか、まるでそんなことが無かったかのように原稿とかタカって来るんだもの。結局あの子らにとって私は自分好みの絵を描いてくれるだけの存在なだけだった。」
「うわあ」
さすがにそれはちょっと引く。もちろん、藍にではなく郷田さんたちに。
「ま、うすうす気づいてたけど、無理矢理そんなことはないって思い込んでいただけ。あ、沙輝が気にすることないよ。私はもう大丈夫だから」
藍はそう言ってはにかんだ。
何だろうな。本当に吹っ切れたって感じで、昨日めちゃくちゃ泣いていた姿はどこ行ったのか。
「あの漫画もちゃんと完成させる。そりゃ欠点だっていっぱいあるだろうけど、頑張ったことは嘘にしたくないから」
「うん、それがいいと思う。読者だってあの子たちだけじゃないだろうし。というか、あの子ら何なの? 美術部は「ヲタ?」の集団とか、意味わからなくてもすごく馬鹿にされたんだけど!」
「ごめん、それは私が代わりに謝っておくわ」
いや、多分美術部と一括りにされているから藍も被害者だと思うんだけど、被害者に謝られてもなー。
「でもまさか自分でも小春たちと喧嘩になるとは思わなかったかな。多分このままいくと絶交になっちゃうかもね」
「え、仲直りする気は?」
「向こうが謝ってくるなら考え直すかもしれないけど」
あ、これ本気で怒ってる。もっとも怒っていなくても藍の性格からして自分から謝りに行くような感じでもなさそうだけどね。勇気がなさそう的な意味でも。
まあ、いきなりそれまでの(一応)友達関係を断ち切っちゃった所はちょっと心配だけど、我慢して付き合うよりはマシだろうし。
「藍がそういうならいいんだけどね。でも、いきなり友達と絶交したら藍がクラスで浮いちゃったりしない?」
「あ、そこは大丈夫。むしろ小春たち自体がクラスで浮いちゃってるから」
「そ、そう」
つまり郷田さんに付き合う方がクラスで肩身が狭くなっちゃうという訳で。悪意無き困ったちゃんって本当に質が悪い。
「じゃあ、また部活でね」
「うん。あ、そうだ、藍」
「何?」
「困った事や嫌な事があったらこれからはちゃんとうちらに相談するんだよ。美術部はみんな藍の味方だから」
我ながらくっさいセリフだよなーと思ったけど、まあ気にしない。だって事実なんだから。
わたし達には頼りになる先輩がいるし、ナリ君もまあ、頼りになるかどうかはともかくそれなりにはやってるし。国木田先生は面白いけどやっぱりいつかはぎゃふんと言わせたい。
「うん!」
藍が力強く返事して歩き出す。わたしは廊下の窓の外に広がる空を見上げた。
うん、今日も快晴。気分も好調。ちょっとやそっとの雨風なんかに負ける気なんてしない。
そう思いながら、わたしは大きく伸びをした。