七人七色 陸校美術部の騒々しい休日(5)
「いや、まさかあんなオチになるとは僕は1%も予想できなかったわ」
「むしろ予想できる方がおかしい」
ゲーセンの片隅に置かれたベンチに座りながら俺と道ノ倉はジュースを飲んでいた。
大将と町成はゲーセンのスタッフに連れていかれて、この場にいない。
「だってありえないだろ。ナリ君の強力スマッシュをカウンターでパック破壊だぞ? 僕、エアホッケーのパックが真っ二つに割れるの初めて見るわ」
大将と町成の対決は、意外にも町成が優勢でゲームが進んだ。
と言うより、大将は古着屋で買ったスカートのせいで、見るからに動きづらそうだった。
町成の強力な攻撃の連続に、大将はほとんど防戦状態。そこから10分ほどのラリーが続いたのち、町成がとどめとばかりに放ったスマッシュを、大将は超反応レベルの速さで打ち返した。ここまでならば白熱した試合のワンシーンである。
が、打ち返したパックはそのままコーナーに突き刺さる勢いでぶつかって、何故か宙に舞い、そのままクルクルと回転して、落下と同時に真っ二つに割れた。こうなってしまったら、試合を続行する事すらできない。
「しかし大将は本当に見ていて飽きないな。たまに心臓に悪いけど」
「あれでも悪気はないんだ。そう言ってやるな。あ、戻ってきた」
向こう側から大将と町成がやってきた。
大将は珍しく、肩を落としてしょげているようだった。
「もしかして、めちゃくちゃ怒られた?」
「いや、むしろ怪我はなかったのかと心配されたし、パックも古いやつだったから弁償もしなくていいと言われた」
「店の人親切でよかったじゃん。なんで落ち込むことがあるんだよ」
「せっかくの勝負がうやむやで終わってしまった」
道ノ倉の顔が引きつった。ある意味大将らしい言い分だが。
「ところであかりたちは?」
「先に外に出てるって。他の子たちも一緒」
「なら待たせる訳にもいかないな」
俺らは店員さんにもう一度挨拶をすると、入り口の自動ドアを抜けて外に出た。
その時だった。
耳を突き刺すような甲高い悲鳴が、辺りに響いた。
声のする方向を見ると、うちの部の女子だ!
市原が道端でへたり込んでいるのを甲府が気遣っている。
「どうした!」
「ひったくり! 藍ちゃんのバッグ盗られて、沙輝ちゃんがそれを追いかけちゃった!」
甲府が指した方向を見ると、走っていく志村の後ろ姿と、更にその先に市原の持っていたバッグを片手に全力疾走している男の姿が見えた。
「あいつか」
言うや否や走り出す大将。
「え? いや、なんですぐ追いかけちゃうの?」
そう言って道ノ倉まで追いかけはじめる。
俺は落ち着くために深呼吸を一つ付くと、携帯から110番をかけた。
市原の方は甲府が様子を見ている。あまりの突然の事に、相当怖かったのだろう。市原の顔からはすっかり血の気が引いていた。
警察が来るまで俺はどうしていいものなのか。
さすがに市原と甲府の女子2人と言う状況の中、放っておくわけにもいかないのだが、かける言葉が思いつかない。うっかり下手なことを言って傷つけてしまうのが怖い。
って、「女子2人」?
「おい、町成は? あいつどこ行った!」
思わず大声で行ってしまったため、市原がびくりと肩を震わせた。
「ヤマさん、ちょっとボリューム落として」
「す、すまん。でもあいつはいつからいなくなったんだ?」
「ごめん、分からない。あれ? と言うか、ナリ君いたっけ?」
「一緒にゲーセンから出たのは確かだ。それは間違いない」
なら、あいつは何処に行ったんだ?
遠くの方からサイレンの音が聞こえてくる。恐らく通報で駆け付けたパトカーだと思う。
追いかけて行った連中はまだ帰ってこない。
大将がいるから大丈夫だと思うが、そもそも窃盗犯の追跡なんて素人が軽々しくやるもんじゃない。犯人もそれを対策しているかもしれないし、武器を持ってる可能性もある。
どのくらい時間がたったのか。恐らく何十分も経ってはないのだが、締め付けられるような緊張はしばらく続き、そろそろ様子を見に行くかどうか迷ったところで。
犯人を追いかけて行った連中が、戻ってきた。