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ラブコメ…?


     七人七色 ビタースイート・キューピッド(4)


 次の休み時間。というか、次の授業終了直後。
 私は速攻で2人をとっ捕まえて、それぞれの事情を説明した。
 正直傍から見たらかなりバカっぽく見えると思う。大体こういうことは当人同士で話をするべきところなんだけど、あの2人の場合、マンツーマンで話せる状態じゃないし、放っておくと余計な誤解を生みだしそうな気がする。
 幸い、二人ともちゃんと話を聞いてくれるタイプだったのですぐに分かってくれたのがありがたかった。
「そ、そうだったんだ。私、山県君の事情もよく知りもせず」
「い、い、いや、その、丁が気に病むことはない、と思うぞ?」
 そして、ヤマさんは全くと言っていいほど、ティーナと目を合わせられずにいる。
 でもとりあえず誤解は解けたみたいだし、あとはもう大丈夫かな。欲を言えばヤマさんはもうちょっと頑張ってほしい所だけど。いつものような毅然とした冷静なキャラはどこに行っちゃったのか。
「ところで、あかり」
 ティーナが私の方をじっと見ている。と思ったら、ヤマさんも私の方を見ていた。
「え? ああ、私、席を外したほうがいいよね」
 慌てて席を立ちあがろうとする。と、その時、右腕をティーナに、左手首をヤマさんに捕まれた。
 え? え? どういうことよ? 意味が分からず、二人の方を見る。
「待って! 今置いて行かれたら不安で死にそう!」
「そうだ! どうやってこの間を持たせればいいのか分からないから頼む!」
「はああああ?」
 何、この流れ。というか、二人とも息ぴったりじゃん。
「だって、私の勇気はもう限界よ! このままフラれたら確実にショック死しちゃう!」
 それ、本人の前で言うの?
「お、おおお俺だって、こんな状況はどうしたらいいかさっぱり分からん!」
 どうしたもこうも、ヤマさんが決めることでしょうが! なんで二人して自分の問題を私に丸投げしてるの?
 だめだ、こりゃ。と思ったけど、一応ティーナの味方をすると約束した以上放っておくわけにもいかない。少なくとも、ヤマさん自身はテンパっているものの、ティーナの事を嫌っているようではないようだし。
 で、「これからどうすればいいのか」となると、一番いい方法はただ一つ。
「とりあえず二人とも、友達から始めたら?」

 

 ティーナとヤマさんの一件は瞬く間にクラス中に広まった。大体の人は驚いていたけど、特に反対する人はいなかった。予想はちょっとしていたけど、冷やかしの声や、なんで友達からなんだというツッコミは結構上がったけど。肝心の二人は、クラスメイトからの質問攻めでろくに身動きが取れずにいる。まるでマスコミに囲まれた芸能人みたい。
「ねえねえ、ティーナと山県君ってどうなのよ?」
 そして、マスコミもどきの余波は私の方にも飛んできた。一応仲人したのが私という事で話が広まっちゃってるんだよね。
「どうもこうも。二人とも会話全然続かないんだもん」
「最初の内はそんなもんだよー。あたしも彼氏出来た時そうだったもん」
「そういうものなの?」
「そういうもの」
 彼女はにっこりと笑った。
 まあ、確かにそれは言えてるかな。誰だって、最初の内は上手くいかなかったり失敗することは珍しくない。何事も長い目で見ていかなきゃね、うん。
 そう思うとちょっと気が楽になってきた。
「でもくっついたらくっついたで大変だよねー」
「大変って、何が?」
「ほら、どうしたって友達より、カレカノの方が優先になっちゃうし、特に男子相手だと気軽に話しかけづらくなりそうじゃん?」
「え」
 不意に稲妻が降ってきて、心にぽっかり穴が空いた苦い感覚に襲われた。
 なんだろう、これ? 突然襲われた嫌な感覚に戸惑っていると、駄目押しするかのように頭の中に嫌な言葉が浮かび上がる。

「この卑怯者」

 待って、私、そんなつもりじゃ。

「あかり? どうしたの、急に」
「う、ううん。なんでもない」
 何でもないと言いつつ、胸が何故か痛い。
 どうしよう、なんだかやってはいけない事をやらかしてしまいそうな、ものすごく嫌な予感がする。

 

 放課後。湧き上がるモヤモヤ感の正体が分からないまま、部活に行く。
 あれからティーナとヤマさんと言えば、何度かティーナが頑張って話しかけては、ヤマさんがものすごいぎこちなく返答するの繰り返しだった。最終的には話すネタが尽きて唐突に天気の話を振り始める始末だし。
 そして、当たり前のように2人は私に助けを求めてくる。
 そのたびに曖昧に笑って自分でもかなり適当なアドバイスやエールを送るんだけど、なんかあまり介入しない方がいいんじゃないかという謎の直感が私を離そうとしなかった。理由は分からないけど。
「あかり。今日は早いな。てっきり私が一番だと思ってたが」
 ほどなくして喜衣乃ちゃんが美術室に現れた。
「えへへ―。残念でしたー。喜衣乃ちゃん、用事がない時はいつも早いもんね」
「なんか、元気ないように見えるが?」
「え? そんな事ないと思うけど?」
 何気に喜衣乃ちゃんは鈍いようで鋭い。
 元気がないという自覚はあるのは本当だけど、余計な心配をかけるのもよくないよね、と気を取り直して準備に取り掛かる。
 今日は文化祭の展示に使うウェルカムボードの制作だ。作品展示して終わり、ってだけじゃなんか地味だし何か目を引くものがあった方がいいじゃないか、というただの思い付きだけど。
「あれ?」
「どうした、あかり」
「筆記用具忘れたー!」
 あーもう! なんでよりによってそんなものを忘れちゃったのか。そう言えば授業終わってから鞄に入れた記憶がない。今から教室に戻るのもすっごく面倒なんだけど、仕方がない。
 しぶしぶ立ち上がると、そこへミッチーとヤマさんが室内に入ってきた。
「おいーす、そこでヤマさんと会っちゃった」
「まあ、クラス隣で行き先同じだからな。それはそうと、甲府」
「え? な、何?」
 名前を呼ばれて背筋にピリッとしたものが走る。
 おかしい。なんで私、ヤマさん相手に緊張してるんだろう。
「忘れ物だ。このペンケース、お前のだろ? 丁に届けて欲しいと言われた」
「え、あ、あ、ありがと」
ああ、もう考えるな私! 変なこと考えるとぼろが出るんだから!
「え?」
「は?」
 しまった。と思った時にはもう遅い。
 気づいたら、私はヤマさんが差し出したペンケースを思い切りひったくっていた。一瞬にして場の空気が凍りつく。
 反射的にごめんなさい、と謝ったものの、ドン引きした空気はすぐには元に戻らない。
「あかりちゃん、今日、何かあった?」
 ミッチーの顔が引きつっている。
「わ、私は何もないよ? しいて言うならヤマさんに色々あっただけで」
「何故俺に振る!」
 ヤマさんが顔を真っ赤にして叫ぶ。それを見たミッチーがヤマさんをいじらないはずがなく。
「ほほう、ヤマさん。何があったか聞かせてもらおうか」
「だから違うって言ってるだろうに!」
 空気はいつも通りに戻ったけど、ヤマさん、うん、なんというか本当にごめん。

 

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