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  吹っ切れ。


     七人七色 ビタースイート・キューピッド(7)


 私とミッチーは下駄箱で靴を履きかえて外に出た。
 寒くはないんだけど、風が妙に強い。
赤く染まった夕焼け空に浮かぶ奇妙な雲が、かなりの速さでどんどん流れていく。
「なんか変な天気だね。この時期ってこんなに風が強かったっけ?」
「さあ? あいにく僕は天気の事には詳しくないから」
 むしろ天気に詳しい男子高校生の方が珍しい気がするんだけどと思ってたら、急にミッチーが前方を見つめたまま立ち止まった。
「ねえ、あかりちゃん、あれって」
 不思議そうにしているミッチーの視線の先を見やると、玄関前の花壇のところでそわそわと不審な動きをとっている背の高い男子生徒・・・・・・いや、これどう見てもヤマさんがいた。こんな所で一体何してるんだろう。
「声かけてみようか。おーい、ヤマさーん!」
 ミッチーの声に気付いたヤマさんが、引きつった表情でこちらを見る。
 どうやら緊急事態っぽい。ただ普段の冷静さを考えるとなんで困っているのかは何となく察しちゃったけど、ティーナ関連で何かやらかしちゃったんだろうか。
「大変な事になった」
 ヤマさんは私たちにすがるような目でぼそりと呟いた。
「えっと、何が?」
「途中まで丁と一緒に帰ることになった」
「いや、それ只の自慢だろ!」
「向こうが誘ってきたんだ」
 ミッチーのツッコミはともかく、ティーナったら思い切った行動に出たなあ、と私は冷静に感心していた。
もしかしたら告白という大きな壁をクリア(したかどうかはちょっと謎だけど)したことで、いろいろ吹っ切れて開き直っているのかもしれない。
「どうすればいいんだ」
「いや、どうするっていわれても」
 ミッチーが返答に困って私の方を見る。つられてヤマさんも私の方へ目線を向けた。
「へ? 私?」
「頼む、甲府。頼ってばかりで申し訳ないとは思っているが」
 確かにこのままヤマさんとティーナを二人きりにしたところで緊張しテンパって大変な事になるのは目に見えてるけど。
 ここはミッチーと一緒にヤマさんをサポートするか。ティーナもその方が安心するだろうし。

 いや、それじゃ意味がない。

 確かにうかつな行動で相手を傷つけたらどうしようとかさっき色々考えたけど、そもそも何でも気を回しすぎるのが一番よくないんじゃないの? 私。
 頼られるのは悪い気はしないけど、ここで私がすべき答えは、
「まあ、女の子苦手を克服すると思って、頑張れ!」
「なっ?」
 ヤマさんだけでなく、ミッチーも驚いた表情になる。
「まさか甲府、まだ怒っているのか? 心当たりはないが」
「ごめんね、それに関しては全面的に私が悪いんだから、ヤマさんは気にしなくても大丈夫だよ。でも、それと これとは別」
「だ、だけどなあ」
「ティーナだって勇気出してるんだから、ヤマさんも頑張るのがスジってもんでしょ?大丈夫、普段通りにして いればいいんだから」
私はにっかり笑ってやると、そのままミッチーの手を掴んで走り出す。
「お、おい!」
「邪魔者は退散しまーす!」
 私とミッチーはそのまま走った。
 なんか全力で走るのも久しぶりだ。走りながら、足の上げ方とか呼吸の仕方は中学の部活で先輩に習ったんだという事を思い出していた。
 校門を抜けたところで、ミッチーがバテたので、ようやく手を放して足を止める。
「あかりちゃん、マジ酷い」
「あはは、ごめん。でもミッチー、もうちょっと体力付けた方がいいと思うよ」
 ここから先は家が反対方向なので、このまま別れてもいいんだけど、バテてるミッチーを放っておくわけにもいかないので、回復するのを待った。
「ねえ、あかりちゃん。いきなり走ったのもそうだけど、なんでヤマさんに協力しなかったんだ?」
「え? そりゃ、いつまでも甘やかすのはよくないんじゃない?」
「いや、そうだけど、もしかしたらさって」
 言いにくそうに、目を泳がせながら口ごもるミッチー。でも、すぐに言いたいことは分かった。
「あ、さっきの『私が2人の間に入ることによって邪魔者になる』って話? それだったら違うよ」
「え? じゃあ」
「2人をくっつけなきゃ、とか邪魔しないようにしなきゃって言う、気負ったおせっかいをやめようって思っただ け」
よくよく考えたら元々ヤマさんとティーナの問題に、私は何の関係性もない。ティーナの相談には乗ったけど、告白したのも帰りを誘ったのもティーナ自身が勇気を振り絞ってやったことだ。
 あの子は危なっかしいけど、なんだかんだで自分の力で頑張ろうとした。変わろうとした。
 なら、私が本当にやるべきことは、変なおせっかいじゃなくて信じることだ。
 どんなに距離が近しい人だって、新しい人間関係が増えたら、人は変わっていく。
 それで寂しい思いをするかもしれないけど、変わっていくことはどうしようもない。
 だから、私も変わらなきゃ。自分らしくなるために。
「ねーミッチー」
「ん?」
「私、自分らしい自分に変われるかな?」
「なんか哲学みたいでややこしそうだけど、そう思ったらいい方向に変われるんじゃないかな?」
「そっか、ならいいけど」
「あ、何ならあかりちゃんも彼氏作ったら? 僕とかお買い得だよ?」
「それ、本心じゃないでしょ、もー」


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