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  kaisou

ヤマさん「いやちょっと待て、そんな話だったか!?」

    七人七色 まつりの前(6)


 文化祭前日。
 幸い、台風はあっさりと通り過ぎ、当日の天気予報は晴れとのことで最大の心配はなくなった。
「という訳で明日は何の心配もなく文化祭を迎えられることになった」
 美術部の展示物の設置も部活の時間の20分をオーバーしたところでようやく完了し、私は皆を集めて最後のミーティングを行うことにした。
 とはいっても開催中の受付当番や不測の事態が起きた場合の連絡手段などの打ち合わせは既に終わらせているので、これは本番に向けての士気向上のためのものである。
 残念ながら先輩達と先生は別件で手伝いには来られなかったので、今この場にいるのは我々七人だけである。
「ここまでいろいろあったが、皆、よく頑張った。あとは本番での評判を待つのみ。つまりやるべきことはやったと言える状態だ」
 私は頼もしき仲間たちの顔を見回した。
 自分の作品だけでなく、会場の飾りつけまで率先して作業してくれた、気配り上手な甲府 あかり。
 予算を気にしながらも、いくつもの像を黙々と作り上げた山県 公斗。
 一見大人しいようで、内に秘めた情熱を作品にひたすら込めた町成 翼。
 気まぐれで落ち着きはないが、それでも自分の憧れに近づけるように頑張った志村 沙輝。
 謂れのない評価に傷つき、途中で投げ出そうとしても、最後にはちゃんと漫画を完成させた市原 藍。
 そして、頼りない面もありつつも常に私を補佐してくれた、副部長のミチ。
 あれ? ミチの本名なんだっけ?
「まあとにかく、ここにいる全員が胸を張って頑張った、と私は思う」
「いやちょっと待って大将。今、僕見て首かしげてたよね?」
「そんなことはない。多分」
「多分って何!?」
 ミチは割と小さなことにこだわる男だな、と思ったところで苗字が道ノ倉(みちのくら)だったことを思い出した。
「てか運動部じゃあるまいし、大将は堅苦しすぎ! ここは美術部らしく、スタイリッシュでハイセンスな感じにしよう」
 ミチが他の五人を見回すが、皆は別にどっちでも言いといった感じでスルーした。山県だけは「お前の言うスタイリッシュでハイセンスの意味が分からん」と反論していたが。
「あ、ほら去年の洲田先輩がやったやつ! あんな感じがいい!」
「去年のってまさか」
 脳裏に去年の出来事が思い起こされる。
「先輩、去年のって?」
「あ、ああ」
 沙輝の問いに私は言葉を濁した。

 

 正直あまり思い出したくない話なのだが、あれは去年。部長になってから初めての文化祭という大きなイベントを前に洲田先輩はとても張り切っていた。形は違うとはいえ、今の私のように。
 そして先輩は前夜祭っぽく景気よく行こう! と言い出し、全員を新校舎の屋上へ連れて行った。
 洲田先輩はそこで周囲に誰もいないことを確認してから、皆を中央に集めると、手に持っていたコンビニ袋を掲げた。
「ふふふ、じゃーん!」
「なんですか、それ」
 彼女はその問いには答えず、袋の中から台の付いた筒状の置物を取り出す。
「って、これ打ち上げ花火?」
「夏合宿の時に余ったやつ。湿気てるかもしれないけど有意義に使おうと思って。やっぱり前夜祭は景気よく行かないと!」
「待ってください! 使うってまさか打ち上げるんですか! さすがにそれは校則違反です!」
 私はすかさずそれを止めようとした。が、その制止もむなしく、洲田先輩がチャッカマンを取り出す方が早かった。
「安心して、一発だけ! 一発だけだから!」
「一発でも駄目です!」
「カタいなー、ミヤコちゃんは」
 強引に取り上げようにも、何かの拍子で火傷を負わせるかもしれないという危険があるため、結局場にいる全員は先輩の奇行を止めることができなかった。
「はいはーい、みんな離れた」
 導火線に火をつけ、それをコンクリートの地に置く。皆が慌てて散った。
 点火して10秒ほどで花火は音を立てて打ち上がる。何発も何発も。
 が、空はまだ明るいので、肝心の花火はほとんど見えず、どう考えても有意義な使い方とは到底思えなかった。
 洲田先輩とミチだけはやたら楽しそうに盛り上がっていたが。

 

「いやーまさか学校の屋上で花火やるとは思わなかったわー。洲田先輩マジ半端ない」
「その後駆けつけてきた先生たちに大目玉をくらったのだが」
 大体花火の点け方からして間違っている。普通は地面に置いてから火をつける。説明書にもそう書いてあったし。
「とにかく今年はそういうのは無しだ。ただでさえ目を付けられているのだから常識的な方向で行くぞ」
「だからそれ大将が言っちゃうの?」
「でも花火じゃなくていいから、なんか景気づけはあった方がいいかもね。なんか楽しそうだし。花火は嫌だけど」
 あかりが間に割って入る。ちなみにあかりは基本怒られ慣れしていないので、去年の花火事件で説教をされた時は一番泣きそうな顔をしていた。
「あ、それいいかも。さんせー! 藍もそう思うよね?」
「え? 私? なんでこっちに振るの? え、えっと、先輩たちはどう思います?」
「こら、少しは考えろ」
 苦笑いで誤魔化そうとする藍を嗜める。
 結局、即興では大したものができるはずもないので、「やるぞ、オー!」と掛け声を合わせるだけのものになった。ミチだけは「そんな運動部みたいなダサいのは嫌だ」とごねていたが、却下した。第一、掛け声がダサいなど運動部に対して失礼にも程がある。
「では文化祭の成功を祈って。エイエイ」

「オ―――――――――!」

 7つの拳が天井に向かって綺麗に伸びる。
 と同時に、パンッと何かが弾けるような音が響いた。

 驚いて音のした方を見ると、そこに居たのは
「やー! ちゃんとやってるか、後輩どもー」
 パーティー用のクラッカー片手に、洲田先輩が得意げな顔で入口の所に立っていた。皆が口をあんぐりとさせていると、彼女はケタケタと笑う。
「いやー、ドッキリを仕掛けようと思って様子をうかがってたら、なんか面白そうなことをやってたんでタイミング仕掛けるならここかなー、て」
 私はそんなあっけらかんとした先輩と、さっきまで一生懸命掃除して綺麗になった床の上に散らばったクラッカーの中身を交互に見やった。
「あれ? ミヤコちゃんどうしたん? そんな顔して」
「どうしたもこうしたもありません!」
 せっかくきれいに飾りつけした展示場。
 せっかく高まった士気。
 それらを一瞬にして吹き飛ばしたクラッカー。
「先輩、あなたの事は先代主将として美術部に貢献したことと、あなたの絵画の腕に関してはとても尊敬しています」
「え、うん、ありがとう? いやーミヤコちゃんにそう言われると照れるわー」
「ですが」
 私がキッと目を見据えると、周囲にいた部員たちはびくりと肩を震わせた。
「いや、ミヤコちゃん? ミヤコちゃん、顔怖いよ?」
「問答無用です! 覚悟してそこに直ってください!」

 

 

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