イメージ的にサモンナイト的な。

その日の夜に

 

 少女は一人、店の屋根に腰掛け、空を眺めていた。
 今夜は美しい満月。そしてきらきらと光る星々。
 下の方からは仕事から解放された労働者たちが酒をかわし、はしゃいでいる声が聞こえてくるが、少女の周囲は静寂そのものだ。
 やがて、少女の唇から美しい歌声が紡ぎだされ、その静かな空間を満たしてゆく。どこか儚げだが、心地よく、穏やかな気持ちになれる歌声だった。
 そして少女が歌い終えた時、背後から拍手の音がした。
「よっ。カルネージの歌姫」
「ジャナルさん! って、きゃあ!」
 突如現れた少年に(それも想い人でもある)、驚きと恥ずかしさで少女は屋根から転落しそうになる。
「おいおい、大丈夫か? いくら2階でもシャレになんないぞ」
「へ、平気です! うわー、恥ずかしい。ジャナルさん、いつから聴いていたんですか?」
「途中からな」
 ジャナルは隣に座り込んだ。そのまま沈黙が流れる。
「なんだか元気ないですね」
「そうか? いや、そうかも」
 ジャナルは少しだけ目を細めて遠くを見た。
「そう、ですよね。あんなことがあったのですから」
 あんな事というのは、イオが意識不明の重体になった件の事だ。さっきより重い沈黙が流れる。
「なあ、リフィ。さっき歌ってたやつ、もう一回歌ってくれないか?」
「え?」
「やっぱダメなんだよ、こういう空気。テンションが上がらないって言うか」
 とにかく気を紛らわしたかったのだろう、ジャナルは無理して笑って見せた。いたたまれない気分になったものの、リフィは彼の申し出を快く承諾した。
「全然オッケーです! なんか嬉しいです、頼りにされてるみたいで」
 笑い返すリフィ。そして、背筋を伸ばすと歌い始めた。

 

銀に煙る空の下 赤く染め上がった地上より
終末を告げる天使が飛び立った
何一つ果たせないまま 誰一人守れないまま
儚き願いも還っていった

されど悲しむこと泣かれ 汝は愛すべき人達への
進むべき未来を歩く力の糧となり 暗き荒野に咲く一輪の花となる

絶望も希望も名誉も愛もその想いでさえも
いつか歴史と記憶から消え逝くだろう
たとえそれが真実でありゆるぎない現実だとしても
私は歌い続けるだろう 今この時それだけのために

 

「普通に聞くと意外と暗い内容なんだな。」
 歌の後、ジャナルはリフィに疑問を投げかけた。
「えー、そうですか? あたしはすっごく好きなんだけど。特別って感じがして。」
「特別?」
「はい! ものすごく古くて、しかも売れなかったから誰も知らない歌だけど、歌詞が大好きなんです。報われなくても心半ばで倒れようとも生きていた証があるっていう歌。良いと思いません?」
「そ、そうだな」
 といいつつ、ジャナルは実の所それほど共感していなかった。正直報われないのも心半ばで倒れるのも嫌だし、それで妥協できる性格でもない。もしかしたらこの歌の知名度と人気が低いのはジャナルのような性格の人間の方が多いからかもしれない。
「で、これ、なんて歌なんだ?」
「この歌のタイトルですか? タイトルは・・・・・・」

 

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