悪夢
少年は深い深い闇の中にいた。
まるで心の奥底を象徴するような暗い闇。
少年が一歩一歩、気を配りながら歩いていると頭の中に声が響いた。
一つは悲鳴。そしてもう一つは獣のような咆哮。
そして、肉をえぐる音。むせ返るような血の匂い。何人も何人も増えていく悲鳴。それらが流れ込むかのように頭の中に入ってくる。
(やめろ)
耳をふさいでもそれを振り払う事はできなかった。
少年は逃げ出そうとして、ブーツに何かがぶつかったのに気がつき、足元を見た。
(!)
それは人間の死体だった。しかも一体だけではない。いつの間にか十数体の死体が少年を中心に転がっているのだ。
(イオ! それにカーラ!)
死体は、全て少年のクラスメイト。知っている顔であった。
(一体誰がこんな事を)
「俺とお前だよ」
先ほどの悲鳴とは違う声。
「お前の中に流れる血が、皆を殺すんだ」
「誰だ!」
足元からうっすらとその姿が浮かび上がる。
「お前は!」
目の前に現れたそれは、少年もよく知っている人物であった。そういえば床に転がっている死体の中で、彼の物だけがない。
「安心しろ。お前もすぐに逝かせてやるよ、わが同胞」
彼は、禍々しく、そして冷ややかな笑みを浮かべながら少年に向かって剣を振り下ろした。
「!」
少年は勢いよく跳ね起きた。体中ひどい汗で、服や髪が肌に張り付いた気持ち悪い感覚があったが、気にしていられなかった。
(夢?)
荒れる呼吸をどうにか落ち着かせようとしながら、少年は今の状況を認識していた。まだ夜明け前の薄暗い室内に、見慣れた家具のシルエットが見える。ここは確かに自分の部屋だ。
そうと分かっていても、彼はまだ落ち着くことが出来なかった。
夢とは思えなかったどす黒い、血と死体の世界。全てが生々しく、絡み付くように彼の心を支配していく。
(俺は、俺は!)
次第に激しくなっていく動悸に、少年は胸をかきむしった。爪が痛み、血を流すほどかきむしっても、それは収まりそうになかった。