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それからというもの

 
 犠牲者千人弱、倒壊した建物が全体の7割を超えた地方都市コンティースはそれでも国の援助を受けながら徐々に復興の兆しを見せていた。
 ただ、学園に関しては倒壊の度合いが激しく、二人の教師が死に、一人の教師が逮捕された事と、『アドヴァンスロード』と魔界を繋ぐ扉の件もあってか、近日中の再開は困難となり、強引に3ヶ月も早い卒業式が執り行われた。
 こんな形で行われた式に、卒業生は誰一人感慨に浸ることはなかったと言う。


 イオ=ブルーシスは卒業後、戦いに無関係な役所の事務官になった。何の変哲もない日々を送り、年をとると深夜の自警団詰め所の警備という、輪をかけて退屈な仕事に飛ばされる。生涯独身であった。

 カニス=アルフォートは周囲の反対を押し切り、世界一の工業国家へ留学。修了後、技師として研究所で働くが、論文を執筆中に倒れ、そのまま息を引き取った。享年23歳。

 ディルフ=キャレスは学園卒業後、誰にも告げずに旅に出た。風の噂では賞金稼ぎとして名を上げているようだが、真相は定かではない。

 カーラ=カラミティは結局あれ以来、卒業式にすら姿を見せなかった。完全に消息不明と言えるものだが、時折クラスメイトだったヨハン=ローネットの墓に差出人不明の花が添えられていたという。

 リフィ=アンセムは卒業後、音楽の勉強のために帝都に渡る。そこで著名な作曲家と知り合い、結婚。その後、自身も歌手として活躍する一方、後継者の教育にも力を注いでいる。

 兄であるフォード=アンセムは、相変わらずカルネージで忙しい毎日を送っている。変わったことと言えば、店長に昇格した事と、常連となったルルエルと話す機会が増えた事である。

 そのルルエル=セレンティーユは教育総会を辞め、コンティースで修繕屋をやりながら気ままに過ごしている。二度と物騒なものを作らないと誓ったものの、トラブルメーカーぶりは健在であった。

 アリーシャ=ディスラプトはいろいろ悩んだ結果、実家の雑貨屋を継ぐことにした。冴えない上に不甲斐ない夫とひねくれた息子を相手に悪戦苦闘の毎日を送っている。

 そして、ジャナル=キャレスはというと。
 どうにか一命を取り留めたジャナルは、事件後帝都へ向かい、4、5年ほど行方をくらました後地元コンティースに戻る。
 その間、何があったのかは誰も知らない。だが、帰郷したジャナルは戦いという要素を捨て、冒険者という長年描いていた夢も捨て、隠居するように静かに暮らしている。
 そして、平穏な暮らしの中で時々空を見上げてはこう思うのだ。

 運命を変えるのは奇跡などと言う美しい言葉ではなく、無様に近い泥臭い涙と吐きたくなるような血の味、数え切れない絶望と犠牲、それらを全て飲み込んだたった一振りの剣撃であった、という事を。

Worst Unit  完


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